体調改善

過剰医療と念のための検査を受け続けるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

より詳しく診てもらうために専門家がいる病院へ。元の病院からレントゲン写真などを借りて持っていくと、『もう一回レントゲンを撮らせてください』と言われることがよくあります。どうして持参したものではダメなのか説明されたことはありますか。また、何かあって病院に行くと『念のためにCTを撮りましょう』と言われます。念のためと言われれば、こちらも何かあったら心配だから、はい、と言ってしまうと思います。しかし、その時に被爆のリスクを説明されたことはありますか?

筆者は聞かれたことなど1回もありません。でも被爆することによるがんの危険性は確実にあるようです。念のための検査を断って病変を発見できなかったこともあるでしょうし、そもそも必要なかったということもあるでしょう。これは病名が分かって後から判明することなのですが、大半は念のための検査は不必要だったことが多いように思います。この念のため検査が過剰医療と結びついてしまっていることがあると思います。

元の医療機関から紹介状を書いてもらっても、次の病院では1からやり直しになったことも良くあります。医療機関同士でお互いに信用できないのかもしれませんが、前のデータが使えないのであれば、紹介状を持って行く意味はないに等しいわけです。M3.comという医者向けのサイトから紹介します。

「念のため」のCT~「本当に必要ですか?」

「先生はなぜCTを撮らなかったのですか?」

 そう指摘したのはある病院の紹介先の呼吸器の先生。一呼吸おき、「肺炎の入院患者は基本、全例CTが必要です」ときっぱり言われた。

 私は長年英国で診療をしてきたが、市中肺炎患者全例に対してCT検査を行っていたわけではなかったため、正直戸惑いがあった。その患者は単純写真で典型的な市中肺炎像を認めたため、臨床的に診断した。リスク評価的には中等症であり、高齢や独り暮らしであることを考慮し入院適応と考え紹介したのだ。結局その医師に言われるがまま、 CT検査を行った。

 CTに対する「意識の違い」

 私が以前勤務していた英国の病院では、「念のために」とCTを撮ると上級医から逆に、「なぜCTが必要だったのか」と問い質されることが少なくなかった。その検査の妥当性をエビデンスやガイドラインと照らし合わせて説明できないと、「患者に不利益だ」と叱られたものだ。臨床的に診断がついている場合はなおさらである。そのため、日本に帰国したばかりの私は「念のために」CT検査をオーダーすることに葛藤があった。

 CTをたくさん撮るのは「CTの台数が多い」から(?)

 現在日本ではCTとMRIによる画像診断なくして、医療が成り立たないといっても過言ではないだろう。日本のCTへのアクセスの良さは世界でも類を見ない。「単純X線感覚」でCTを撮る医療者も少なくないのではないか。CT検査を行い読影するときに、前回検査と比較可能な患者が多いことにも、帰国当初は驚いたものだった。

 日本のCT台数は世界で最も多いのは周知の事実である。日本は「CTを気軽に撮れる環境」にあるのは間違いないだろう。このような背景もあり、日本の人口1000人当たりのCT検査回数においても世界でトップクラスである。しかし、Lancet誌によると、日本はCTだけでなく、単純X線撮影、バリウム検査、血管造影などを合わせたX線検査全体の回数でも断トツ世界一である 1)。 日本ではCTのみならず、その他の画像検査も諸外国と比べ格段に多く行われているのだ。

(文献1を基に佐々江氏がまとめ)
 CTを撮るのは「患者が求めている」から(?)

 「CTを撮るのは日本の患者が検査を好むから」と説明する医師に、私は日本で何人も遭遇した。確かに医師が検査を勧めれば、素直に「撮ってください」と言うのはいかにも日本の患者らしい。

 しかし、日本人が検査を好きか否かと聞かれると疑問が残る。日本で診療をしていて、患者に検査のメリット・デメリットを丁重に説明すると、意外にも「検査は要りません」と答える患者は少なくない。多民族国家である英国で診療してきて、多くの日本人の患者はあまり自分の意見を述べようとしないと感じる。検査一つとっても、事前に十分な説明と理解を求めることの重要性を改めて実感させられる。

 被曝のリスクの共有を

 45歳の患者において、1回の全身CTにおける一生涯のがんの死亡リスクは0.08%(1250人に1人)との報告がある 2)。Lancet誌によると、放射線診断による被曝が原因の発癌は日本で最も多く、全てのがん発症者の3.2%を占める(調査した15カ国の平均は1.2%)1)。必要な検査は行わざるを得ないが、放射線検査をオーダーするときは医療被曝を意識することは肝要である。

 過剰診断を問わない文化

 放射線検査による被曝のリスクを多くの患者は理解している。しかし、「過剰診断」といった弊害についてまで理解できている患者は少ないだろう。がん検診として無症状の患者にCT検査を行うことによって、一生涯症状が出ないようながんを発見・診断してしまうこともある。特に近年CTの精度は高まり、これまで以上に過剰診断が起きる確率が高くなっている。過剰診断が増えれば当然ながら過剰治療が増え、時にそれが患者に不利益になることもあるだろう。CT含め画像検査へのアクセスが良いからこそ、医療者は患者にこのような「見えない不利益」についてもしっかり説明する必要があるだろう。

 「Less is more」の医療教育を

 日本はCTへのアクセスが良く、それによって助かっている患者も多くいることだろう。しかし、患者の利益を最優先にすべく、一般的となっている医療行為でさえその正当性について十分に説明する責務が医療者にはあるはずだ。

 英国では医療者が過剰医療に向き合うために、「過剰医療」や「shared decision making」の教育に力を入れている。3年の総合診療専門研修を通し、腰部単純写真やPSAといったさまざまな検査では過剰診断が比較的起きやすいことについて学び、指導医と「検査の必要性」や「見えない不利益」について議論する。少ない医療でより質の高い医療を提供することができるという、「less is more」の発想だ。そして患者と効果的なコミュニケーションが取れるよう、「shared decision making」を模擬患者との医療面談の練習を通して実践的に学ぶ。この「less is more」のカルチャーを医療に浸透させるには医療者の意識改革と教育が大切である。

 もちろん、CT検査をしないことによる「見逃しのリスク」を最小限にする努力も肝要であり、適切な臨床判断の時にはCTを惜しまず指示することも重要だ。私もレジデントに教育する立場になったが、「患者の病歴や身体診察を軽視しない」ことの重要性を繰り返して教えている。画像検査はあくまでも補助診断でしかなく、その検査を行うことによる弊害があるのであれば、「その検査の必要性を考える癖」を若い時からつける必要性があるからだ。

 次にあなたが「念のためにCT」と言うとき、ぜひその検査の必要性について考えてほしい。そして時間が許す限り、検査の不利益やリスクについても、患者と共有してほしい。それがあなたの患者を過剰な医療から守ることにつながるかもしれないからだ。

【参考文献】
1.Berrington de Gonzales & Darby、Lancet, 363, 345-351, 2004
2.Brenner DJ, Elliston CD. Estimated radiation risks potentially associated with full body CT screening. Radiology. 2004;232:735-738

佐々江龍一郎
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. 樋口真知子 より:

    はじめまして。「何でまたレントゲン撮るの?」という場面を幾つも見てきました。以前から感じていた疑問についてわかりやすく解説されていてすーっと頭に入ってきました。貴重なお話を読めて良かった。
    ありがとうございました。

コメントを残す

*

five × four =