新型コロナウイルス

小島勢二先生:プリオン病の発症可能性

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コロナワクチンによってプリオン病が発症する可能性について

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小島 勢二

 

gorodenkoff/iStock

プリオン病は感染性のタンパク粒子(プリオン)が脳に蓄積しておこる病気で、ヒトに見られる代表的なプリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である。なお、牛にみられるプリオン病が狂牛病である。プリオンに汚染された牛肉を食べたヒトがCJDを発症し、大きな社会問題になったことを記憶している人は多いのではないだろう。

プリオンは細菌でもウイルスでもなくタンパク質からなる感染性の因子で、プリオンを構成するタンパクがプリオンタンパク質である。プリオン病の原因は、正常型プリオンの立体構造が変化して生じた異常型プリオンで、正常型プリオンを異常型プリオン構造に変換してしまう。

この異常プリオンタンパク質が脳に沈着するとプリオン病を発症する。プリオンで汚染された牛肉を食べてからCJDを発症するまでの期間は約10年と考えられている。この異常型プリオンタンパク質を産生する遺伝子配列はグリシンジッパーモチーフと呼ばれるが、コロナウイルスを構成するスパイクタンパクにグリシンジッパーモチーフが存在する。

CJDの初発症状は抑うつや異常行動などの精神症状であるが、進行すると認知症や運動失調が現れ、1〜2年で全身の衰弱、呼吸不全、誤嚥性肺炎などで死亡する。診断には、脳脊髄液の14-3-3蛋白やタウ蛋白の測定や異常型プリオン蛋白高感度増幅法(RT-QUIC法)が有用である。

14-3-3蛋白とタウ蛋白はCJD以外の病気でも陽性になることがあるが、RT-QUIC法では髄液中の異常型プリオンタンパクを検出するのでより診断的価値が高い。確定診断には特徴的な病理所見やウエスタンブロット法や免疫染色による脳組織からの異常型プリオン蛋白の検出が必要である。

コロナワクチンが開発された当初からスパイク蛋白にプリオン領域が存在することから、将来、CJDを発症する危険性が懸念されていた。ところが、思いのほか、2021年に、トルコからコロナワクチンの接種後に発症したCJDの一例が報告された

症例は82歳の女性で、コロナワクチンを接種した翌日から神経症状が出現、短期間に病状が進行して死亡した。臨床症状と脳波やMRIなど所見、さらに髄液の14-3-3蛋白が陽性であったことからCJDと診断された。しかし、確定診断に必要な病理検査や異常型プリオン蛋白の検出は行われていない。

最近、フランスからコロナワクチン接種後に発症した26例のCJDが報告されたので、その概略を図1に示す。 26例のうち20例はフランス、3例は米国、イスラエル、ベルギー、スイスからが各1例である。トルコからの報告と同様に、ワクチン接種後中央値が11日と短期間に発症しており、予後も極めて不良で1例を除いて全例が死亡した。

図1 コロナワクチン接種後に発症したクロイツフェルト・ヤコブ病の臨床経過

この論文についてファクトチェックが行われたが、この論文は偽りだと判定している。その理由として、1)コロナワクチンの接種が始まった2021年以降にCJDが増加したという証拠は見られない。2)人口の90%以上がコロナワクチンの接種歴があることから、CJDの発症は偶発的なものではないか。3)コロナワクチンがCJDの原因となる理論的根拠がないというものであった。

CJDのように極めて稀な病気では、発生率で統計的な有意差を示すのは困難である。ワクチンとの因果関係が認められている心筋炎・心膜炎でさえ発生率の差を見るのでなく、偶発性を検討している。すなわち、接種1日後〜21日後の心筋炎・心膜炎の発症リスクと接種22日後〜42日後の発症リスクを比較して、発症リスクに有意差があることから因果関係が認められている。3)については、スパイク蛋白にプリオン領域が存在することから、原因となる理論的根拠がないとは言い切れない。

図2には、ワクチン接種日からCJD発症までの日数を示す。ワクチン接種から30日後に発症した2例を除いて、24例は3週間以内に発症しており、この発症パターンは偶発的とは思えない。

しかし、26例については、CJDの確定診断に必要な髄液の検査や病理検査の結果は示されておらず、CJDと確定診断するのは困難である。また、ワクチン接種から発症までの潜伏期間の中央値が11日というのは、典型的なCJDと比較するといかにも早すぎる。

図2 コロナワクチン接種からクロイツフェルト・ヤコブ病が発症するまでの日数

次に、米国のワクチン有害事象報告制度(VAERS)に登録されたコロナワクチン接種後に発症したCJD症例について検討した。2023年3月17日の時点で、VAERSには79例の登録があったが、記載が不十分な症例を除いた66例の概略を述べる(図3)。

年齢は、26歳から87歳に分布し、中央値は67歳である。男性が35例、女性が31例である。使用製剤は、ファイザーが54例、モデルナが11例、ヤンセンが1例であった。51例について、ワクチン接種から発症までの潜伏期間が記載されているが、15例が10日以内、9例が20日以内、6例が30日以内と、全体の59%が30日以内であった。予後不良で、報告時点で32例が死亡しており、ワクチン接種から死亡までの日数は、28日から452日で、その中央値は160日であった。

図3 ワクチン有害事象報告制度(VAERS)に登録されたクロイツフェルト・ヤコブ病

髄液検査で、14-3-3蛋白やタウ蛋白の高値あるいはRT-QUIC法で異常型プリオン蛋白が検出された症例は14例あり、なかでも診断的価値が高いRT-QUIC法で異常型プリオン蛋白が検出された症例が5例見られた。しかし、詳細な病理所見が記載されている症例は見られなかった。

フランスからの報告さらにVAERSへの登録例を検討すると、臨床所見や検査所見からCJDと極めて類似した神経疾患が、偶発的とは言えない頻度で発生しているのは確かのようである。しかし、詳細な病理所見の報告がないのでCJDと確定診断することはできない。それ以上に、接種後の潜伏期間が極めて短いことは典型的なCJDと同じとは思えない。

この疑問を解くのにヒントとなる症例報告を紹介する。パーキンソン病の病歴がある76歳の男性であるが、コロナワクチンの接種後に不安の増大、社会からの引きこもりなどの行動や精神的変容がみられるようになった。さらにパーキンソン病の症状が悪化して運動障害もみられるようになった。3回目のワクチンを接種した3週後に、突然、倒れて入院、集中的治療が行われたが間もなく死亡した。

剖検が行われ、直接の死因として、誤嚥性肺炎が考えられたが、脳には多発性壊死性脳炎、心臓には軽度の心筋炎の所見が見られた。得られた組織について、抗スパイク蛋白と抗ヌクレオカプシド抗体を用いた免疫染色を行ったところ、脳の血管内皮細胞とグリア細胞、心臓の血管内皮細胞にスパイク蛋白の発現が見られた(図4)。ヌクレオカプシドの発現は見られなかった。

コロナ感染による場合は、スパイク蛋白抗体に加えてヌクレオカプシド抗体にも染色されるが、この症例では、スパイク蛋白にのみ染色されたので、ワクチン由来の遺伝情報によって産生されたスパイク蛋白と考えられた。

図4 脳、心臓の血管内皮細胞とグリア細胞におけるスパイク蛋白の発現

スパイク蛋白の発現があれば、スパイク蛋白による直接の細胞傷害のほか、抗スパイク蛋白抗体あるいは細胞障害性T細胞による自己免疫機序によって細胞が傷害されてもおかしくない。

ワクチン接種後にみられる心筋炎はスパイク蛋白による心筋傷害と考えられており、ワクチン接種後早期から発症する。壊死性脳炎の原因もスパイク蛋白による傷害と考えれば、心筋炎と同様にワクチン接種後早期から発症すると考えられる。この症例において、脳と心臓の血管内皮細胞にスパイク蛋白が発現し、壊死性脳炎と心筋炎の所見が同時に見られたことは、上記の可能性を支持する。

現在、コロナワクチン接種後のCJDと報告されている症例は、ワクチン接種からの潜伏期間が極めて短いことや、病理検査で異常プリオン蛋白が脳に沈着していることを確認されていないことから、典型的なCJDとは区別した方がよいと思われる。ここでは便宜的にCJD-likeと命名する。この範疇に入る症例については、先入観をもたずにその病因や発症機序を検討する必要があると思われる。

日本で、CJD-likeは発生しているだろうか。3月10日に配布された厚生科学審議会のコロナワクチン接種後の副反応報告にはCJDの病名はない。しかし、意識変容(168例)、意識レベルの低下(687例)、運動機能障害(333例)、刺激に無反応(25例)などCJDを疑う症状が見られた患者は多数報告されている。とりわけ、ワクチン接種後に認知症の症状が急速に進んだ患者の中にはCJD-likeが紛れ込んでいるかもしれない。

ワクチン関連心筋炎の診断に、血中スパイク蛋白の検出が有用であることが報告されているが、同様な発症機序が考えられるCJD-likeの診断においても血中スパイク蛋白の測定が有用かもしれない。

コロナワクチンとCJDとの関係が話題になったのは、もともとスパイク蛋白にプリオン領域が存在するからである。コロナワクチンが典型的なCJDの発症リスクであるかが明らかになるには、今後10年間、20年間にわたる観察を必要とするであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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