新型コロナウイルス

何も学ばない政府分科会

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上阪 欣史

日経ビジネス副編集長

新型コロナウイルスの「第7波」は、重症化率、致死率が極めて低く、行動制限なしでもピークアウトした。足元で第8波といわれるが、過去に学ばなければ永遠にコロナ禍は終わらない。

 11月11日の政府の対策分科会。新型コロナが季節性インフルエンザと同時流行した場合、行動制限を検討するという方針に対し、2人の委員が異論を突きつけた。大阪大学の大竹文雄特任教授と慶応義塾大学の小林慶一郎教授だ。

 根拠としたのは新型インフルエンザ等対策特別措置法。この第21条では「病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下」であることが明らかになった場合、政府の対策本部は廃止すると定めている。これは行動制限など特別な措置を検討する同法の対象から外すことを意味するが、その条件を満たしている可能性が高い。論拠はデータだ。

 インフルエンザの致死率は60歳未満で0.01%、60歳以上で0.55%。一方、BA.4や5による第7波でのコロナの致死率は60歳未満で0.004%(大阪)、0.01%(東京)、60歳以上で0.475%(大阪)、0.64%(東京)となっている。

 つまり、コロナの致死率はインフルエンザよりも低いか同程度であることは明らかで、尾身茂会長が主導する分科会の議論は、エビデンス(科学的根拠)はおろか法的根拠も欠いていると言わざるを得ない。ちなみにこのデータは、厚生労働省アドバイザリーボードのもとで作成され、財政制度等審議会でも示された。

 国際医療福祉大学大学院の高橋泰教授が、コロナウイルスの株ごとに重症化率と死亡率を比較したところ、中国・武漢発祥の初期株の死亡率は1.539%、アルファ株は1.643%だが、BA.5は0.022%だった。高橋教授は「ほとんど風邪と変わらないと思われるレベル。分科会や政府はこうした国民を安心させるデータをもっと積極的に出すべきだ」と指摘する。日本感染症学会は「感染しても順調に経過すれば風邪と大きな違いはない」との声明を出している。

予算の無駄遣いも

 9月下旬から軽症の陽性者は外来診療を受ける必要がなくなり、全数把握もしなくなったことなどから、医療機関や保健所の負担は軽減されている。そうした状況下で「感染拡大防止の協力呼びかけは、過剰な対策で社会経済に大きな負の影響を与える可能性がある」(大竹教授、小林教授)。

 そもそも第7波では、主要国でトップクラスのワクチン接種率とマスク着用率をもってしても過去最多、世界最多の感染者数を記録した。そして厳格な行動制限などしなくても自然とピークアウトした。高橋教授は「重症化リスクの低い変異株に対し、感染者数を目安にした対策はもうやめるべきだ」と訴え、感染症法上の「2類」から季節性インフルエンザ並みの「5類」への引き下げを求める。

 政府はこれまで感染防止に莫大な予算をつぎ込んだ。この予算の使い残しや無駄遣いも看過できない。

 このほど会計検査院が国に報告した2021年度決算の検査で、19~21年度に計上した約94兆5000億円のコロナ対策費を調べたところ、実際に執行できたのは80%程度。18兆円近くの使い残しが生じていた。無駄遣いの代表例がコロナ患者の受け入れを増やすため病床を確保した医療機関に支払われた交付金だ。32医療機関に対し合計約55億円が過大に支払われていた。あまりにずさんだ。

 米国や英国、イタリア、インドにいる筆者の知人はみな異口同音にいう。「もうコロナなんて過去の話。誰も第何波なんて数えていない」。日本では商業施設も公共施設も消毒液やアクリル板、検温器が置かれ、マスク着用が呼びかけられる。児童、生徒は毎日黙食を強いられている。第8波の次も9、10と数え続け、いつまでも非常時対応を取り続ければ日本は半永久的にコロナの国になる。

日経ビジネス2022年11月28日号 93ページより目次

 

 

 

 

 

 

 

 

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