第93回(令和4年8月3日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 全国の新規陽性者数等及びワクチン接種率2ページ目
赤の囲みは筆者。10万人あたりの新規陽性者において、20~29才では未接種者1048.2に対して2回接種者1139.5で2回接種者の方が多い。30~39才では未接種者765.5に対して2回接種者983.0と2回接種者の方がはるかに多い。40~49才では未接種509.9に対して2回接種者858.4で2回接種者の方がはるかに多い、さらに3回接種者も637.8で未接種者より多い。
60才から65才では未接種者330.6に対して2回接種者508.3で2回接種者の方がはるかに多い、さらに3回接種者も346.3で未接種者よりも多い。65~69才では未接種者118.7に対して2回接種者419.7と2回接種者の方がはるかに多い、さらに3回接種者262.5で未接種者より多い。70~79才では未接種者206.2に対して2回接種者335.6で2回接種者の方が多い。
前回の表を貼り付けておきます。
3回接種者の陽性数が未接種より増えた項目が7月4~10日では65~69才だけだったのが、7月1~17日では60~64才と65~69才の2項目になり、さらに今回は40~49才と、60~64才、65~69才の3項目に増えているのです。
この結果から言えることは、接種した人たちの感染拡大傾向は続いており、特に3回接種者で感染が増え始めているということです。海外の例と一致する傾向です。ワクチン接種すると、一定期間経過後に感染しやすくなり、死亡しやすくなるということです。
次に、このデータでは『ワクチンの有効性は評価出来ない』という、おかしな記事を見つけましたのでチェックを入れていきます。
新型コロナワクチン、2回目接種者の方が未接種者より感染しやすい? 厚労省が出しているデータの落とし穴
厚労省の集計でワクチンの効果が評価できない理由
第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp
※ここからは、7月13日のアドバイザリーボードに提出された鈴木さん、京都大学の西浦博さん、東京都北区保健所長の前田秀雄さん、東北大学の押谷仁さんが分析した資料を見ながら質問している。 ――最新の厚労省の集計を見ても、2回接種者の方が未接種者よりも10万人あたりの新規陽性者数が多い年代がありますが、なぜこうなっているのでしょうか? 見かけの数字がそうなっているのは事実です。ただ、そもそも接種回数別の人口10万単位の報告数を比べるだけで、ワクチンの有効性は評価できません。このことは度々、アドバイザリーボードでも指摘してきました。 感染研でも同じ生データを使っていますが、こういう示し方はしてきませんでした。 ――厚労省の集計と感染研の集計では何が違うのですか? 感染研が示しているのは、あくまで新規陽性者数に占めるワクチン接種回数別の数だけです。 これに対して厚労省の資料では、人口におけるワクチン接種者数を分母として、陽性者数を分子として10万人あたりの陽性者数を計算しています。
要因1.接種歴の不明者が非常に多い
第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(資料3-2-②)
――厚労省のやり方でなぜワクチンの効果は評価できないのでしょうか? 実はここには疫学では典型的なバイアスに関係する問題があって、そのせいで、本当のワクチンの有効性が見えなくなってしまうのです。 大きく4つの要因が考えられます。 まず1つ目が、「接種歴の不明者が非常に多い」ということです。特にオミクロンが流行し始めた第6波以降、「不明」と「空欄」を合わせた接種歴不明がどんどん増加して、現時点で全体の3割以上がワクチン接種歴不明です。都道府県によっては半分近くが不明になっています。
接種歴不明者とその他の接種歴の人は年齢分布も発病率もかなり違う
この「接種歴不明」の中には当然ながら、未接種者も3回接種者も2回接種者もいます。それぞれが実際どれぐらいずつ含まれているかは全くわかりません。
青は筆者です。通常は接種歴を聞いて接種する医療機関がほとんどですから、単に日付が思い出せないだけと解するのが妥当だと思います。そうすると、未接種者が『私は不明です、打ったかどうか分りません』というのかどうか、疑わしいですね。若い人でこれだけ大量に健忘があるとは思えません。2回目か3回目で接種したことがある、つまり不明者は接種した人です。
接種回数別の報告率を計算して、その大小を単純比較しようとするとき、この全体の3割以上を占める「接種歴不明者」を分子から除外することになります。 しかし、それが意味を持つのは、この人たちの本当の接種回数の割合が、接種歴がわかっている人たちと全く同じであるときだけです。
しかし、残念ながらそんな都合のよいことはおこらない。実際に、接種歴不明の人たちと、接種歴がわかっている人たちの特徴を比べると、年齢分布も、診断時に症状があるかないかも、大きく異なっています。これで両者の接種回数の割合が同じであるとは考えるのは無理があります。 それにもかかわらず、それが同じであると仮定して3割以上ものデータを除外して計算してしまうと、結果にバイアスをもたらしてしまうことになります。 この影響で未接種者よりも接種者の報告数が多くなることもあり得ます。 さらに東京都北区保健所のデータを見ると、HER-SYSとVRS(ワクチン接種記録システム)の接種歴データには少なからずズレがあります。患者や家族の記憶に頼ったHER-SYSの接種歴には、どうしても限界があることに注意が必要です。
要因2.接種後の時間経過が考慮されていない
2つ目の要因は、「接種からの時間経過」です。 この要因は、特に2回目接種について関わります。2回目接種後、ワクチンの感染予防効果は数ヶ月程度は維持されますが、半年以上経過すると大きく低下します。 でも、このデータでは2回接種したということしかわからず、いつ接種したのかがわかりません。実際のところ、2回接種をした人の大半はすでに半年以上が経過しています。感染予防の効果がほとんどなかったとしてもおかしくありません。
その通りで、ワクチン接種後の一定期間経過で有効性が下がります。接種して2週間後に有効性が現れ、半年経つと効果が減少し、その後マイナスに転じるということです。いつデータを取ったら良いのかについて悩んでいるというのは、変わっていると思います。海外のデータではそのようなものを知りませんが。一番効果が出る時期にデータを取りたいのかも知れませんが、国民の接種時期もバラバラですから、実現可能とは思いません。
――それにしても未接種者よりも2回目接種の方が新規陽性者が多いというのは解せないですね。 極端な話、全員が2回接種して1年後で、ほとんどワクチンの効果が期待できないとしても、陽性者は未接種とほぼ同じぐらいになるはずですよね。おっしゃる通り、逆転するのはそれだけでは説明できません。 いずれにしても接種後の期間について全く考慮されていないので、接種からずいぶんと時間がたった今、両者を見比べてもワクチンの有効性はわからないということは確かです。
要因3.未接種者と接種者の特徴や行動パターンが違う可能性
第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(資料3-2-②)
3つ目の要因は「未接種者と接種者の特徴や行動パターンが違う」ということです。これも、1つ目の要因と並んで未接種者と2回目接種者の報告数が逆転し得る要因になります。 この1年で人口の9割以上が2回接種を終えているわけです。そのなかで接種していない残りの1割の人は当然、接種した9割と比べて、さまざまな特性が違っているでしょう。 リスクのある社会活動をどう取るか、症状が出たときにちゃんと受診するのか、濃厚接触者と見なされた時に検査を受けるのかなどで、行動パターンが違う可能性があります。
受診、検査について、そうであるというデータはどこにあるのですか? 想像でものを言う人なのでしょうか?
もしかすると接種をしていない人たちは、2回接種をした人に比べるとハイリスクな行動を取るかもしれない。 一方で、接種していない人たちは症状があっても受診しないかもしれない、あるいは検査しないかもしれない。いろんな理由で医療保健システムにアクセスできない、あるいはしない人たちは、ワクチンも受けないし、検査を受けないかもしれない。 そうすると未接種で感染しているとしても、検査も受けないから感染が見えてこないことがあり得ます。
一体何のためにこのような言い訳をするのでしょうか。接種した人と未接種の人ではリスクを取る行動に違いがあると言いたいのでしょうが、Think Waccineによる調査では『感染対策を緩和させていない』が両者とも72%程度で、そのようなことは起こっておらず、両者の間には違いは見られなかったということです。思いつきで言うのではなく、しっかりしたエビデンスを持ってこないと説得力は全く出てきませんよ。この時点で科学者失格ですね。
――「未接種者」は信念としてこのワクチンは害を与えるからうたないという人もいれば、免疫の問題などでうちたいのにうてない人もいると思います。ワクチンに懐疑的な人は病院や検査も行かないかもしれませんが、逆にうちたいのにうてない人は慎重に行動して感染しない可能性もあるでしょうか? その通りだと思います。 ――逆に2回目を接種した人は、ワクチンをうったことに安心して行動が緩んで、感染しやすくなったという可能性についてはどうですか? 可能性はあると思います。ただし、あり得るというだけで、このデータからは「なんとも言えない」というのが正確なところです。 ここで先ほどの2つ目の要因と、この3つ目の要因を合わせて考えてみましょう。 接種してから少しずつワクチンの効果が減弱していく一方で、未接種者は医療機関を受診する可能性が低いことが考えられます。
未接種者が医療機関を受診する可能性が低いというデータはどこにあるのでしょうか? 憶測でものを言うトンデモ専門家です。むしろ接種者は周囲へ迷惑を掛けたくないために接種している人が多く、自分が感染したとして同調圧力が強い集団では、言い出せないケースがあるのではないかと思ってしまいます。また、デンマークの例を持ってきていますが、集団同調圧力が異常に強い日本とは、比較すること自体が不適切ではありませんか。
こうした仮定の下、シミュレーションをすると、最初は確かに接種者の方が未接種者よりも陽性報告が少ないのですが、時間と共にお互い近づいてきて逆転することもあり得ることがわかります。 日本でこうだということを証明したわけではありませんが、デンマークでは実際、未接種者の方が検査受診率が低いことが報告されており、あり得ないシナリオではありません。もう、シナリオが好きなら小説家になった方が良いでしょう。
要因4.未接種者の方が既に感染して、免疫を獲得している可能性が高い
第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(資料3-2-②)
4つ目の要因は、「感染による免疫の影響」です。 未接種の人は感染するリスクが高い。感染した後どうするか? ワクチンをうつかと言えば、おそらくうたないでしょう。 そうすると未接種者の方が、接種者よりも過去に感染している可能性が高くなります。未接種者の中には感染経験がある人が多くいるということです。 実際に厚労省と感染研で分析した血清疫学調査の結果でもその傾向が見られます。ワクチン接種者と未接種者を比べると、未接種者の方が過去に自然感染している人の割合が高いのです。 そして、この人たちは感染によって免疫を獲得している可能性が高い。 この図は、自然感染によって、強く次の感染から守られている人たちが一定割合いるのに、それを考えないと未接種者の本当の感染リスクを過小評価してしまうことを示したものです。 ――ワクチンよりも強い免疫なのでしょうか? 再感染を防ぐ効果はワクチンよりも強い可能性があり、それが半年から1年程度続くと言われています。
『未接種の人は感染するリスクが高い』は誤りです。厚労省アドバイザリーボードを見ても、イギリス、カナダでコロナ死亡のうち90%以上がワクチン接種者で未接種者はわずか6~8%だったことを見ても、未接種者は自然免疫・T細胞系の働きよって感染から守られます。過去に自然感染して免疫を獲得しているなら、大変素晴らしいことだと思いますが、『ワクチンによる免疫よりも自然免疫の方が優れていることは確かだ』と言ったのは、ジョンズホプキンス大学のトップドクターである、マーティ・マカリー博士:MARTY MAKARY,M.Dです。
それによると、自然免疫は入院予防に2.8倍、予防接種と比較してCovid感染の予防に3.3~4.7倍の効果があるということです。日本の研究者よりレベルが高いかも知れませんね。
ただ、オミクロンについてはデルタ以前に比べると再感染する可能性が高くなっているようです。それでも2回接種して半年以上経っている人と、未接種で2週間前に感染した人を比べたら、後者の方が感染から守られているでしょう。 ――それならワクチンしないで感染したらいいじゃないかというあわてんぼうがいそうですが、まず感染で苦しむし、後遺症も残っているかもしれない状態を経た上で「感染による免疫で守られている」ということですね。 そういうことです。特に、今流行しているオミクロン株のBA.5系統は過去に感染していても再感染する可能性があります。それに1回目の感染よりも再感染の方が死亡や後遺症のリスクが高いという最近の米国からの報告もあります。「感染を繰り返すことが良い」というような考えはやめた方がいいです。
オミクロンBA.5は受容体非依存性感染でデルタまでのACE2結合ではなく、上気道粘膜に感染します。そのため、どのような種類のワクチンであっても、効果はないどころか無意味です。血中抗体価も関係ありません。感染を繰り返すことはその通りです。上気道感染のため重症化することは希であり、普通の風邪予防で十分です。むしろワクチン接種者の方が、感染した場合に重症化する危険性があります。それはワクチンによって免疫が抑制されているからという理由です。
ワクチンの効果を見るデータを出せ、という圧力
以上のように挙げた要因を全て合わせると、厚労省の表だけを見て、未接種と接種者を比べてワクチンの有効性を評価することは適切ではない、という結論になります。 ――それがわかっているのに、こういうデータをアドバイザリーボードで毎回厚労省が出していることについて、専門家として「誤解を招くのではないか」とか指摘しないのですか? 実際、この表を出し始めた頃から、私や一緒に資料を提出した西浦博先生、東北大の押谷仁先生は注意しなければいけないと指摘しています。我々疫学者にとっては、これは大学の講義で話をするような典型的な問題なので、言わずにはいられません。 ――専門家からの指摘はあったのに出し続けていて、実際に誤解を招いているわけです。計算して出している厚労省も問題ですが、こういうデータしかない日本の統計システムの問題もあるわけですね。 わかりやすいデータを出そうとするのはよいのですが、あたかもワクチンの有効性を計算できるかのように見せていたのは、もう少し慎重であるべきだったと思います。
これは厚労省を始め日本のお役所の責任問題ですよね。統計システムが不十分であるのは、あなた達が責任を持ってやってこなかったということになるのですが、ならば有効性を見ることができるデータをきちんと出さなくてはならないわけです。しかし、新たに接種歴の記載を不要としたことは、都合が悪くなって隠蔽したとしか思えません。隠蔽すれば良いとするあなた達の体質こそが問題であり、国民を騙そうとする意図が窺えます。真相がバレた時、かつてないほどの混乱が起こるでしょうね。クビを洗って待っておくように。
確かに1年前なら、ワクチン接種が始まって間もないから「接種歴不明」も少なく、効果も強く、自然感染で免疫を獲得した人も少なかったので、多少のバイアスの影響があっても未接種者より接種者の方が報告数は少なかった。 それが、時間とともにデータの問題と方法論の限界から次第にバイアスの影響を大きく受けるようになってしまったということです。 ただ厚労省の立場を考えると、メディアや国会などから「ワクチンは効いているのか?」という質問が常に投げかけられているわけです。特にワクチンに懐疑的な人たちからの声に対して、「わかりやすいデータを出さなくてはいけない」というプレッシャーがかかっているのではないかと思います。 そのプレッシャーから、とりあえず手元にあるデータを使って、こういう表を出さざるを得なかったのではないでしょうか。 もちろん我々研究者も何もせずに手をこまねいているわけではありません。私が関わっているもので言えば、感染研でもきちんとした研究デザインで新型コロナワクチンの有効性を検証していますし、前任地の長崎大のチームでもコロナワクチンの有効性を評価して、成果も出しています。つい最近も、感染研と西浦先生との共同研究の成果を発表しています。 ワクチンの効果について議論するときは、これらを参考にしてほしいと思います。
ワクチンの接種歴を管理し、活用するシステムが日本にはない
――そもそも日本に欧米のようなきっちりしたワクチン接種歴やその後の経過を集めるシステムがないことが問題ですよね? おっしゃる通りです。この件で厚労省を批判しても何も解決には結びつきません。むしろそれで本当の問題が覆い隠されてしまうことの方が問題です。 結局、ちゃんとしたデータがないことが問題の根源です。医療現場でワクチンの接種歴を確認するときに、本人や家族の記憶に頼るしかないという今のシステムでは、「接種歴不明」は今後さらに増えていくでしょう。そういうデータしかないにもかかわらず、あたかもそれが有用であるかのように出さざるを得なかったことの方が問題なのです。 そもそも、日本にはワクチンの接種記録を体系的に管理して、活用するシステムが存在しません。各自治体に予防接種台帳があって管理はされ、9割以上電子化も進んでいるようですが、自治体別に管理されていますから管理方法が標準化されていません。 個人の識別もマイナンバーだったり、健康保険のIDだったり、氏名・年齢だったりして、バラバラな形で管理されています。自治体別に管理され、横のつながりは全くありません。 それを病院で確認することもできないので、結局、接種歴は本人の記憶に頼るしかない。新型コロナの患者データに、確実な形で接種歴を結びつけるシステムが存在しないのです。これが最大の問題です。
一括して管理出来るシステムがない。これこそ国民の健康を何も考えてこなかった、お役所仕事の成れの果てだと思いますが、如何でしょうか?
――マイナンバーカードも抵抗感のある人が多い中、日本ではさまざまなデータを統合して管理するシステムを構築しづらい。なかなか難しいですね。 ワクチンの有効性だけでなく副反応でもずっと議論されていますが、一向に進みません。 日本では接種後に、何らかの症状が見られたら医師が届け出るシステムはあります。 しかし本当は、ワクチン接種記録を全て登録し、接種後に症状が現れたら全て紐づけてデータベース化しておかないと、ワクチンと症状の因果関係を確認することができません。日本では個別の研究班や個別の自治体でやっているところはありますが、日本全体ではまだできていないのです。 大きなデータベースを国全体として作らないと、また今回のようなことになるでしょう。 もちろん個人情報についてはきっちりと守りながら、それ以外の情報は積極的に活用すべきであるし、それが結局は自分自身の利益として戻ってくるのだということを我々、国民一人ひとりが認識を深める必要があるのだと思います。 個人情報を安心して預けるには国家への信頼感が欠かせません。政府の主導的な役割が期待されるところです。
【鈴木基(すずき・もとい)】国立感染症研究所感染症疫学センター長 1996年、東北大学医学部卒業。国境なき医師団、長崎大学ベトナム拠点プロジェクト、長崎大学熱帯医学研究所准教授などを経て、2019年4月から現職。