対照的なコロナ対策をとったキューバとハイチのその後
キューバ、ハイチ、ドミニカ共和国はカリブ海に浮かぶ隣接した島国である。
キューバの人口は1,120万人、ドミニカ共和国は1,130万人、ハイチは1,170万人と、3か国の人口規模は、ほぼ同じである。キューバはヨーロッパ系人種が72%を占めるが、ハイチはアフリカ系が95%、ドミニカ共和国は73%が混血である。65歳以上の高齢者はキューバでは16%を占めており、ハイチの5%、ドミニカ共和国の7%と比較すると高齢者が多い(図1)。
筆者は、先に、コロナウイルスへの感染や死亡率は、BCG接種歴やコロナワクチンの接種率と密接に関係することを報告した。
コロナ流行初期における日本の低い死亡率をBCGで説明できるか?
表1には、キューバ、ハイチ、ドミニカにおけるウイルス検査回数、コロナワクチンの接種回数とコロナ感染者数、死亡数を示す(表1)。
3国はともにBCG接種を継続しているが、ワクチンの接種率は3国間で大きく異なる。キューバの総接種回数は、100人あたり393回と世界でもトップであるが、一方、ハイチの総接種回数は5回と国民のほとんどがワクチンを接種していない。ドミニカ共和国はキューバとハイチの中間で、総接種回数は145回であった(図2)。
パンデミックの始まりからワクチン接種が開始される前までの人口100万人あたりの感染者数は、キューバが1,059人、ハイチが856人と、BCG接種を継続した他の国と同様に、BCG接種を中止した欧米諸国と比べて極端に少なかった。死亡数もキューバが13人、ハイチが20人であった。
3国におけるBCG株の種類についての情報は得られていないが、ドミニカ共和国は感染者数が15,000人、死亡者数が214人と、キューバやハイチの10倍であることから、デンマーク株などの効力が低いBCG株であった可能性が高い。
一方、ワクチンを接種開始後、2023年4月末までのキューバにおける感染者数は10万人で、ハイチの3,000人と比較して実に30倍であった。ドミニカ共和国は、5万8千人でその中間にあたる(図3)。死亡数も、キューバと比較して、ハイチは10分の1、ドミニカ共和国は2分の1であった。
キューバ、ハイチ、ドミニカ共和国の間で、コロナウイルスへの感染率や死亡率で大きな差が見られた理由としてワクチン接種率のほか、高齢化率や人種差も考えられる。しかし、65歳以上の高齢者の割合がほぼ等しいハイチとドミニカ共和国には大きな差が見られている。また、米国では黒人が他の人種と比較してコロナウイルスへの感染率や死亡率が高いことから、人種差でも説明できない。
ハイチではウイルス検査が普及しておらず、コロナと診断されずに死亡したケースが多いことも考えられる。キューバにおけるコロナウイルスの検査回数は、1,000人あたり470回であったが、ハイチで18回に過ぎなかった。ドミニカ共和国の検査回数は、309回で、キューバとは大きな差は見られないが、感染者、死亡数は、キューバの半数であった。
コロナ感染者や死亡数の報告は、その国におけるウイルスの検査回数に大きく影響される。検査回数が少ない国では、実際はコロナ感染死であってもコロナによる死亡とされずに、コロナによる死亡数が低く報告されている可能性がある。超過死亡は、見逃されたコロナ死亡を含んでおり、より実態を反映している。
コロナ流行下における2020年1月1日から2023年4月末までの人口10万人あたりの累積超過死亡はキューバが525人、ハイチが176人で、ドミニカ共和国が50人であった(図4)。ワクチンの接種回数がキューバの10分の1であるハイチの超過死亡は、キューバの3分の1であった。ドミニカ共和国のワクチン接種回数はキューバの3分の1であったが、超過死亡は10分の1であった(図4)。
カリブ海に浮かぶ3国の比較から、ワクチンを接種しても、コロナウイルスの感染や予防効果が得られなかったことは明白である。
わが国も、頻回のワクチン接種を推進したキューバと同じ経過を辿っている。日本が、パンデミック初期には欧米と比較して圧倒的にコロナウイルスの感染者数・死亡数が少なかったにもかかわらず、ワクチン接種を推進した後は、世界一の感染者数を記録するようになった理由を、ワクチン接種との関係から検討することが必要である。