腸の不調が様々な病気の元となることは、実をいうと、筆者も身をもって体験してきました。寝るときに薄着でお腹を冷やしたりすると、風邪や扁桃腺などよく発症していましたし、上気道の感染症にも罹るんですね。それ以降は意識してお腹を温めるようにして、使い捨てカイロも常備するようになりました。身体の本来の意味での免疫とは、腸が担っていると思うのです。
ある時に播種性血管内凝固(DIC)という重病に罹りました。血小板など血液の凝固因子が大きく失われて、身体中から出血をする状態です。そのときに腸からの出血が下血となって止まらなくなりました。結局は輸血で命が助かったのですが、退院しても半年以上は体力が回復しなかったし、まともに仕事に復帰するまで1年近くかかってしまいました。
腸からの下血というのが、大きなダメージを身体に与えているんですね。
つい先日、仕事をしながらラジオを聞いていると、大変興味深い話に巡り会いました。
腸と脳が迷走神経でつながっている。
腸の不調【原因物質】が迷走神経を伝わって中脳の黒質を破壊する。
パーキンソン病の原因が腸にあること。
数十年前に聞いた『脳科学』講座で、黒質ー線条体路が破壊されるとパーキンソン病になることは聞いていましたが、それが腸と関係性があるなどとは思いもしませんでした。驚きです。以下、文字起こししてみました。
FM東京『FUTURES』2020年2月25日から抜粋しました【文責は筆者】
松田卓也 宇宙物理学者、理学博士
『ドーパミンとパーキンソン病』
パーキンソン病の原因が腸にあるのではないか、という最新の学説を紹介します。
まずパーキンソン病とは何か。パーキンソン病とは脳の病気で、手の震えとか動作や歩行の困難などの運動障害を伴う進行性の神経変性疾患です。
これが進むと自分で歩くのが困難になり、車椅子や寝たきりになります。パーキンソン病の患者の一見した特徴は手の震えとかヨチヨチ歩き、前屈みの前傾姿勢、筋肉のこわばり、小さい字を書く小字症などがあります。
高齢になるほど発症しやすくなり、日本での患者数は10万人あたり100人から150人と言われています。
1990年代初頭には2万人くらいだったのが、それが急速に増えて今は18万人になっています。また特定疾患の潰瘍性大腸炎も難病もこのところ急に増えている。これはアメリカでもそうなんです。
理由はよく分からないんですが、多分、加工食品や添加物が増えているとか、農薬が増えているとか、抗生物質の使用が多いとか、要するに環境要因なのだろうと思われます。
物の本には潰瘍性大腸炎の患者はパーキンソン病になりやすいと書いてあるんですね。つまり腸の疾患、炎症がパーキンソン病の原因の一つと推測される訳です。
・・・途中省略・・・
パーキンソン病を初めて報告したのは1817年、英国のジェイムズ・パーキンソンです。パーキンソン病患者の脳を調べると中脳の黒質という部分に問題があることが分かっているんです。脳幹は大脳に近い部分から中脳、橋、延髄と分かれていて、延髄の先が脊髄につながっていきます。
パーキンソン病というのは、この脳幹の一部の中脳、その(中の)一部の黒質という部分の病気なんですね。この黒質は何をするかというと、ドーパミンという神経伝達物質を分泌するんです。
同じ神経伝達物質であるセロトニンは『しあわせホルモン』ですが、ドーパミンは『よろこびホルモン』といわれています。何か快感を感じたらドーパミンがドバッと出るんですよ。だけどドーパミンは喜びだけではなくて、運動に関わっているんですね。
パーキンソン病で黒質がやられてドーパミン不足になります。このドーパミンは大脳基底核という部分に作用して運動を始めるきっかけを作るんです。ですからドーパミンが不足すると運動が始めにくくなるんです。ドーパミン不足がパーキンソン病の様々な症状の原因です。
だから、パーキンソン病の患者はドーパミン不足なんだからドーパミンを与えれば良いんじゃないかと、例えばドーパミンを飲めば良いんじゃないかというと、そうではないんですね。ドーパミン自身は脳には直接行けません。というのは脳ー血液関門というのがあって、血液から脳へは行けないんです。ですからドーパミンの前駆物質であるLドーパを洗えるんです。
しかしね、黒質がやられてドーパミンが出なくなっているんですから、Lドーパ飲んでドーパミン増やすというのは所詮対症療法ですよね。パーキンソン病を治すわけではありません。そのほかにも脳の深部にある大脳基底核に電極を埋め込んでね、それで刺激するという話もあります。そこに電流を流したら、手が震えていたのがピタッとおさまります。でもこれも対症療法ですね。
パーキンソン病は脳の病気であるんですけど、最近、その原因が腸にあるのではないかという仮説が出て脚光を浴びているんです。
実は昔からパーキンソン病の患者には便秘が多いと、だから何か関係があるんじゃないかと疑われていたんですが、それがネズミの実験で証明されたんです。パーキンソン病を起こす原因物質のタンパク、アミノ酸があるんです。それをネズミの腸に入れますそうすると数ヶ月後、3ヶ月後とか6ヶ月後にこのネズミがパーキンソン病になったんです。
しかし腸に入れた原因物質がどうして脳に移動するのか? そこが分からなかったんですが、これが分かったんですね。それが今回の画期的な発見です。
それは脳と腸をつなぐ迷走神経というのがあって、それを通っていくんですよ。迷走神経というのは自律神経の一種、そのうちの副交感神経の一種なんですね。それでネズミを二つの群れに分けて、どっちも脳に問題のある物質を入れます。
で一方のネズミの迷走神経を切っておくんですよ。そうするとパーキンソン病に罹らなかったんですね。つまり何かの原因で腸に発生したパーキンソン病の原因物質が、迷走神経を伝わって脳幹に行ってそこで黒質を壊した、ということなんでしょう。
これは極めて最近の話です。
腸では何らかの腸内細菌がいたずらしているんでしょう。詳しいことは分かりません。ただ今の段階で言えることは、パーキンソン病を防ぐには腸の健康が重要だということですね。
パーキンソン病になると、さらに認知症になりやすく、また歩行困難で寝たきりになりやすいです。現状ではパーキンソン病の原因は不明ということで、対症療法しかありません。でも近年、ここ数年です、パーキンソン病の原因が腸にあることが分かってきたんです。
だからといって治療法が確立したわけではないんです。だけど近い将来に分かることが期待されるんですね。ですから現状で我々が出来ることといえば、腸の健康に留意すること、特に便秘の方は注意してください、ということです。