新型コロナウイルスから派生した変異株、オミクロンBA.5は重症化の懸念があるという報道がでました。東京大学の医科学研究所からのものですから、信憑性があるのではないかと思うかも知れません。まずは、問題となった記事から見ていきましょう。
東京で“4カ月ぶり”1万人超え 急速に広がる「BA.5」の脅威 重症化リスク高い可能性
2022年7月12日 火曜 午後6:17
東京の新型コロナウイルスの新規感染者が、およそ4カ月ぶりに1万人を超えた。置き換わりが加速する「BA.5」について、専門家からは重症化リスクを懸念する声が上がっている。午後に開かれた、全国知事会。小池都知事は、「都内の感染状況ですけど、第7波に入ったと指摘を受けております」と、若い人への3回目接種など、ワクチン接種をあらためて呼びかけた。
東京都で12日、新たに確認された感染者は、1万1,511人。先週の火曜日から、6,209人増えた。また沖縄県では、新たに過去最多の3,436人が感染。さらに、熊本県や鹿児島県など、各地で過去最多となった。全国の感染者も、およそ4カ月半ぶりに7万人を超えた。感染の急拡大に関係しているとみられるのが、置き換わりが加速するオミクロン株の「BA.5」。
東京大学医科学研究所の佐藤佳教授らは、ヒトの肺の細胞を使って実験を行った。その結果「BA.5」は、これまで主流だった「BA.2」に比べて、ウイルスが18.3倍も多く増殖したことがわかった。さらに…。東京大学医科学研究所・佐藤佳教授「ハムスターという実験動物を使った実験の結果、BA.5の方が、BA.2よりも肺で増えやすく、病原性とか重症度が高くなっているということがわかった」
オミクロン株は、肺であまり増えず、重症化しにくいとされてきた。しかしBA.5は、肺でも増えやすく、重症化リスクが高い可能性があるという。東京大学医科学研究所・佐藤佳教授「ウイルスそのものが持っている能力としては、BA.2よりBA.5の方が高い病原性、(重症化リスク)を示す能力を持っているということはわれわれの(実験)結果から言えると思います」
佐藤教授は、「気の緩みを締め直し、あらためて基本的な感染対策を徹底する時期に差しかかっているのではないか」としている。
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国民を再び恐怖に突き落とすようなニュースです。しかし、BA.5で重症化するというのは、本当でしょうか。
朝日新聞もこの問題を扱っています。2022年7月15日
A:WHOは、BA.5がこれまでのオミクロン株より重症化しやすいという証拠はないとしています。オミクロン株以前に流行していたデルタ株などに比べれば、一般的には重症化するリスクは低いとみられます。ただし、高齢者や持病のある人などは、デルタ株などと同様、重症化のリスクが高いとみられます。
WHOは7月6日に公表した報告で、最初に流行したオミクロン株BA.1に比べ、BA.5が重症化しやすくなったという証拠はないとしています。国内でこれまで流行していたBA.2もBA.1と同じぐらいの重症化率とみられていますので、BA.5はBA.2とも同じぐらいの重症化率と言えます。
英国健康安全保障庁も、6月24日に公表した報告書で、これまで流行していたオミクロン株よりBA.5が重い症状を引き起こすという証拠はないとしています。
一方、東京大学医科学研究所の佐藤佳教授らが5月に公表した、専門家による評価を受ける前の論文によると、BA.2とBA.5の特徴をそれぞれ持つ疑似ウイルスをハムスターに感染させる実験行ったところ、BA.2疑似ウイルスに感染したハムスターの体重は減らなかったのに対し、BA.5疑似ウイルスに感染したハムスターは体重が約10%減りました。
ハムスターの感染実験で、体重の減少は、重症化しやすさをみる一つの指標です。ただし、ハムスターの結果が、そのままヒトにも当てはまるかどうかはわかりません。 また、人間の場合、動物とは異なり、ウイルスそのものの病原性だけで重症化するかどうかが決まるわけではありません。ワクチン接種や感染によって新型コロナウイルスに対してある程度の免疫ができていますし、重症化を防ぐ薬も登場しています。
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BA.5で重症化!報道…のウソ 森田洋之
こんにちは、医師&医療経済ジャーナリストの森田です。
夏に入って新型コロナの感染拡大が続いていますね。7月14日現在、検査陽性者は東京で1万人を超え、僕の住んでいる鹿児島では過去最多の1500人超えを記録しています。
心配ですね…。でももうコロナ禍も3年目、慌てず統計を見てましょう。
実は毎年、夏に感染の山が来てるんですよね。一昨年は8月10日前後、去年は8月20日前後に感染のピークが来ていたことがわかります。
今年も例年通りだとするとお盆前後で感染のピークが来るのかもしれません。となると、あと一ヶ月ほどは感染者が増える?ことになります。
ただ、オミクロン株の弱毒化を経験した我々はもう、単に検査陽性者数が増えるとか、感染者数が増えるとかで怖がる必要はないでしょう。
そう、問題は「重症化リスク」です。
では、BA.5の重症化リスクはどうなのでしょうか?
昨日、こんなニュースがツイッターのトレンドに入っていました。
ハムスターを使った実験の結果、BA.5の方が、BA.2よりも肺で増えやすく、病原性と重症度が高くなっているということがわかった。BA.5は、肺でも増えやすく、重症化リスクが高い可能性がある。
とのこと。
心配ですね…。でももうコロナ禍も3年目、慌てず統計を見てましょう。
実はまだ日本では流行したての新しい株なので、しっかりした統計データが出ていません。
でも、外国のデータはあります。例えば、すでにBA.4とBA.5 がコロナ感染全体の45%を締めているというシンガポール。
そのシンガポールの統計では、なんと
「検査陽性者のうち99.8 %が軽症・無症状」
とのこと。
もちろん、ここまで軽症・無症状が多いのでシンガポール政府は感染対策の強化はしないそうです。
アメリカもそう。アメリカではすでにコロナ感染者のうち7割がBA.4とBA.5に置き換わっているそうですが、下図の通り「感染者数」も「死亡者数」もそんなに変化はありません。
もちろん、アメリカ政府が変異株BA.5を警戒してコロナ感染対策を強化する…なんて言う動きは全くありません。
そうなのです。BA.4 が来ようが、BA.5 が来ようが、オミクロン以降の世界各国は感染者数の増減にも関わらず、マスク規制などの感染対策を緩めているのです。
こちらは数日前の日本テレビ「スッキリ」で特集していた先進各国のコロナ対策の様子です。
以上をまとめるとこうなります。
- ハムスターで実験したところ、BA.5は重症化しそうだった。
- でも実際に流行っている国では「軽症・無症状」がほとんどだった。
- 事実、欧米各国は感染対策・行動規制をほぼ解除している。
そう。実は、実験室で行われた実験結果は、あくまでも実験室の中での話であり、それが実際の人間社会で起こるか?という、それは全く別の話なのです。
こうした実験室レベルの報道に触れて、恐怖や不安などの心の動きを感じた時は、一旦冷静になって慌てずに
「統計を見てましょう。」
そこには、また別の世界が広がっていのですから。
ちなみに、コロナの重症数に関して、国の発表はあてになりません。
というのも、これは僕もびっくりしたのですが、国立感染症研究所がたまたま広島の重症症例を調査したら、そのうち7割が軽症だったそうですから…。空いてる病床はなるべく埋めといたほうが報酬がもらえて病院経営にとっては良いからでしょうね。各病院から報告される重症病床使用率はかなり水増しされている可能性があります。
で、最も参考になるのがこちらのECMOネット。
ECMOは、患者さんの体への侵襲性も高く、また稼働に人手もかかるので、本当に重症にならないとなかなか使えない装置です。
上記広島県の例のように「軽症だけどなんとなく心配な症例」とか「重症例に付き添っている軽症例」にはとてもとても使えないものなんですね。
で、今現在のECMO使用状況がこちら。
日本全国では、2149件もECMO受け入れ可能なのに、実際に稼働しているのは30件だけ。1千400万都市の東京都に至ってはゼロ件です。
はい、僕が何を言いたいのか…もうお察しのとおりです。
実験室から発せられる「重症化の可能性」みたいな「あやふやな情報」ではなく、実際に社会で起こっている「信用できる統計情報」を見ていきたいものですね。