超過死亡数の増加は高齢者によるもので、老衰や寿命によるものだと言われますが、若年成人でも超過死亡が増加しています。これは何を意味しているのでしょうか。
2023年に若年成人でみられた超過死亡:自殺の増加が原因か?
コロナ流行下における超過死亡の主たる原因は、高齢者死亡の増加によると考えられてきた。しかし、英国においては、2023年になると、若年成人における超過死亡率が高齢者を上回るようになり、その原因は心血管系疾患の増加であった。
わが国における若年者の超過死亡についても、同じような傾向が見られるだろうか。
超過死亡率(%)は、観察された死亡率と予測死亡率との差を予測死亡率で割って算出した。予測死亡率と95%予測死亡区間は、パンデミック前の2010年から2019年までの死亡数からロジステイック回帰分析を使って求めた。なお、東北大震災の影響を考慮して、2011年から2013年は除外した。
図1には、0歳代、10歳代、20歳代、30歳代における2010年から2023年までの全死亡率の推移を示す。2023年は、11月、12月の死亡数が得られていないので、1月から10月までの数値を1年間に換算して検討した。
2011年には、すべての年代において、東北大震災による超過死亡がみられたが、その後、2019年までの死亡率は、全年代において予測区間内であった。一方、2020年からは、0歳代を除く各年代において、超過死亡がみられ、2023年が最も高い死亡率であった。
図2には、2020年から2023年における年代別超過死亡率を示す。10歳代から30歳代の超過死亡率は、2020年から2023年にかけて漸増し、2023年が最も高かった。死亡数の絶対値が多いので、超過死亡数は高齢者の方が多いが、超過死亡率は、英国と同様に、高齢者よりも若年成人の方が高かった。とりわけ、2023年は、その傾向が顕著であった。
国立感染症研究所が発表するわが国の超過死亡は、Farringtonアルゴリズムで予測した死亡数を用いて超過死亡数を算定しているが、2022年までは見られた超過死亡が、2023年には一転してみられなくなった。2023年の超過死亡が両者で大きく異なるのは、筆者らは予測死亡数を算出するのに、パンデミック期の2020年から2022年の死亡数を除外しているのに、感染研はパンデミック期を含めた死亡数に基づいて算出していることによる。
10歳代から30歳代における死因別の死亡率を示す(図3)。この年代の死因で最も高いのは他の死因を大きく引き離して自殺であった。各年代ともに、自殺による死亡率は、パンデミック前の2019年と比較して、コロナの流行が始まった2020年から増加がみられ、その後も漸増して、2023年が最も高い。
図4には、10歳代、20歳代、30歳代の自殺による死亡率の推移を示す。
20歳代、30歳代はともにコロナの流行が始まった2020年から超過死亡が始まり、漸増傾向であった。実死亡数から予測死亡数を引いた20歳代の超過死亡数は、2020年は456人、2021年は629人、2022年は561人、2023年は663人であった。30歳代においても、2020年は315人、2021年は398人、2022年は505人、2023年は734人であった。
2023年は10月までの値を年間換算しているので、11月、12月の死亡数が公表されれば、2023年の超過死亡はさらに増加する可能性がある。
これまで、コロナ流行下での自殺者数の増加について、日本からいくつかの研究が報告されている。
2020年4月から2021年12月までの検討では、高齢者を含めた全年代では、コロナ流行前と比較して統計学的に有意な自殺者数の増加はみられなかった。ところが、年齢や、性別を分けて検討すると、男性では、20歳代と40歳代、女性では、20歳代、30歳代、50歳代、60歳代、70歳代において、コロナ流行下では有意な自殺者数の増加がみられた。この期間の全年代を合計した自殺による超過死亡数は男性が1,208人、女性が1,825人であった。
コロナ流行前と流行期における自殺の理由の変化についても検討されている。2020年1月から2021年5月までの期間に、警察庁が集計した自殺統計原票には、21,027人の自殺の理由が記載されている。その結果、男性では、仕事のストレスや孤独感、女性では家庭・健康・勤務問題を動機にした自殺が増加していた。
Reasons for Suicide During the COVID-19 Pandemic in Japan
今回の検討では、2022年以降、とりわけ、2023年に若年成人において自殺者数が著しく増加していることが明らかになった。2023年には、行動制限も解除され、社会生活もコロナ流行前に戻りつつあるので、自殺者が増加した理由について、コロナ流行下とは、違った観点からの検討が必要と思われる。
自殺者数の増加の原因を解明するには、心理学的あるいは失業率との関連など社会学的な検討に加え、コロナ感染やコロナワクチン接種の影響などを生物学的に検討することも必要である。
自殺とうつ病との関係は確立されており、自殺者の半数以上はうつ病に罹患していると言われている。コロナワクチン後遺症患者会のアンケート調査では、うつ病と診断される病名が最も多く、320人のうち35人がうつ病であった。
コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較
Kondo等は、潜伏感染しているヒトヘルペスウイルス6(HHV6)が、唾液中で再活性化し、脳の一部である嗅球に潜伏感染すると細胞死を誘導し、うつ病を発症することを報告している。
筆者の検討では、ワクチン後遺症に罹患した4人の中・高校生のうち、3人の唾液からHHV6のDNAが大量に検出されていた。また、コロナ感染後の後遺症(Long Covid)においても、自殺との関連が指摘されている。
わが国においても、欧米諸国と同様に、コロナの流行が収束しているにもかかわらず、かえって、若年者の超過死亡が増加しており、その主な原因は自殺の増加であることが、明らかになった。自殺の増加の原因を検討するには、社会学、生物学の双方から研究を進めることが必要である。