人の死因の第3位は医療行為によるものだそうです。AIでは『医学誌BMJの最新号によると、医療ミスが米国で心疾患とがんに続く3大死因に浮上する可能性があるそうです1。厚生労働省の調査によると、日本でも診療行為に関連した死亡は増加傾向にあり、2019年には約2,000人が亡くなっています2。』薬については『日本医療安全調査機構によると、薬剤に関連した死亡は2015年から5年間で273件報告されています1. また、誤投与による死亡例もあり、2015年から5年間で36件報告されています2』死に至らなくても、健康を害したり、慢性疾患のもとになったりで、良いことは何もありません。将来寝たきりになりたくなかったら薬を止めること。
米国人の死因、第3位は「医療ミス」か 推計25万人が死亡 – CNN.co.jp
認知症の数十万人「原因は処方薬」という驚愕
危険性指摘も医師は知らず漫然投与で被害拡大
・落ち着きを失い、ときに激昂し暴言・暴力をふるう
・記憶力や思考力などの認知機能が低下する
万引きを繰り返したのは認知症のせい
兵庫県立ひょうごこころの医療センター認知症疾患医療センター長の小田陽彦医師のもとには、認知症やそれに付随するさまざまな問題を抱えた患者がやってくる。
70歳代の女性患者が「自分は認知症ではないか?」とやってきたのは2015年11月だった。50歳代のころから、うつ病で総合病院精神科での入退院を繰り返していた。この間、万引きをする盗癖がおさまらず、何度も警察沙汰になった。本人は「やってはいけないとわかっている」と言う。認知症検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)では30点中24点。23点以下は認知症が疑われる。小田医師は「行動異常型前頭側頭型認知症」を疑った。だが頭部をMRIで調べたが、萎縮などの症状は見つからない。
「もしかしたら、薬剤起因性老年症候群かもしれない」
老年症候群とは、高齢者の老化現象が進むことを意味し、薬剤によってもたらされることを薬剤起因性老年症候群と呼んでいる。認知機能の低下(薬剤性認知障害)のほか、過鎮静(過度に鎮静化され寝たきりになるなど)や歩行困難などの運動機能低下、発語困難、興奮や激越(感情が激しくたかぶること)、幻覚、暴力、さまざまな神経・精神症状のほか、食欲不振や排尿障害といった副作用が表れることを指す。日本老年医学会なども最近になって使い始めた言葉だ。
この女性は5種類の薬剤を服用していて、精神科領域の薬剤として、抗精神病薬を1種類、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬2種類を飲んできた。小田医師は、これらの薬剤を一気に中止して様子を見ることにした。依存性のあるベンゾジアゼピン系薬剤の急な断薬は危険だが、窃盗の公判中で、また万引きをすれば刑務所行きも免れないので決断した。
薬剤を止めて間もなく、表情が明るくなりよくしゃべるようになった。何より盗癖がピタリとおさまったのには驚いた。MMSEも1カ月後には28点に跳ね上がり、その後も満点近い数値で推移している。認知症の疑いはまったくない。
小田医師が薬剤起因性老年症候群の中で、最も疑っているのがベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬だ。
最も疑わしいのがベンゾジアゼピン系薬剤
1960年代に開発されたベンゾジアゼピン系薬剤は、感情などに関わるベンゾジアゼピン受容体に作用して、睡眠薬・抗不安薬として使われている。日本で発売されているもののほとんどがベンゾジアゼピン系で、後発品を含めて約150種類ある。非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬もあるが、作用機序は同じなのでベンゾジアゼピン系と同じような副作用がある。
ところが、1980年代に海外で高齢者への投与が問題となった。服用したベンゾジアゼピン薬剤を分解する代謝が悪いうえ、排泄する能力も低下しているので体内に蓄積され、効きすぎるリスクがある。過鎮静の症状や認知機能、運動機能の低下などの副作用があることが明らかになり、海外では高齢者には「使用を避けるように」と指摘されている薬剤だ。
小田医師の元には、ベンゾジアゼピン系薬剤が原因と見られる患者が後を絶たない。
精神科クリニックで認知症とうつ病と診断された80歳代の女性は、抗認知症薬に抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などを服用し始めて間もなく動作が緩慢になり、終日こたつで過ごすようになった。認知機能はMMSEで17点と低かったが、MRIでは海馬の萎縮は目立たない。薬剤を徐々に減らしてみると、動作が速くなって明るさが戻り、デイサービスに出かけられるまでに回復した。レビー小体型の認知症の疑いは残るものの、MMSEは24点に戻った。明らかに薬剤起因性老年症候群に該当する。
「薬を続けていたら、寝たきりになって意思疎通もできずに亡くなっていた可能性が高い」(小田医師)
ベンゾジアゼピン系薬剤を減薬したら認知機能や過鎮静が改善したケースは、あちこちで聞く。だが、こうした症例は、減薬に取り組んでいる医師だから見抜くことができる。気づかずに見過ごされているケースがほとんどではないだろうか。
例えば、通院の場合は認知機能が落ちたとしても、薬剤が原因とは医師も患者本人も家族も考えない。急性期病院ではまずは治療すべき病気の治療が優先されるから、ここでも医師が気づくことはほとんどない。転院先の病院では元気な頃の患者を知らないから異常に気づかず、急性期病院の処方を継続することが多い。
そもそも医師が薬剤の危険性を知らなければ、副作用が起きても「お年ですから」と単なる老化現象で片付けられてしまう。たとえ薬剤を疑っても、複数の薬剤を服用しているから、原因を特定することは難しい。薬剤起因性老年症候群が、今の日本の医療システムの中で埋もれてしまっているのは、そういった事情がある。
認知機能低下の1~2割が薬剤性という衝撃
私たちの関心事の1つは、認知機能が低下した患者のうち、薬剤によるものが、どれほどの割合を占めているかということだ。小田医師の見解は、こうだ。
「認知症の疑いでやってくる患者の1~2割は、薬剤が原因というのが実感だ」
これはベンゾジアゼピン系薬剤だけでなく、同じように危険性が指摘されている向精神薬なども含めての割合だ。少し古いが、1987年にアメリカのワシントン大学医学部のチームが発表した論文では、認知機能の低下を招いた65歳以上の308人の患者のうち、約11%に当たる35人に薬剤の影響があったと指摘している。
2017年に日本神経学会が作成した「認知症疾患診療ガイドライン」でも、1999年のアイルランドの論文を引用するかたちで「認知機能障害を呈する患者の中で薬剤に関連すると思われる割合は2~12%」と推測している。
取材で知り合った関東の特別養護老人ホームに勤務する50歳代の看護師も、療養型病院に勤める40歳代の職員も、薬剤によるとみられる過鎮静や認知機能の低下をきたした患者が「2割~3割、あるいはそれ以上」と証言する。
いずれも1~3割というところで一致している。
認知機能が低下した1~2割が薬剤起因性老年症候群だと仮定しよう。厚生労働省の研究班が推計した2020年の認知症患者は602万~631万人だ。この患者の1割が薬剤を原因としたものだとすると60万人、2割だと120万人。とんでもない人数になる。
小田医師は、「認知機能の低下の原因に薬剤が関わっている患者が、それくらいいてもおかしくはない」と話す。
認知症患者の全員が薬剤を服用しているわけではないので、これは大雑把な推計にすぎない。だが、これがありえない数値だとは誰も反論できない。こういった副作用の本格的な研究がなされてはいないからだ。わかっているのは、さまざまな薬剤が認知機能の低下などを招く薬剤起因性老年症候群は、けっして過小評価できるものではないということだ。それが半年にわたって、この問題を取材してきた私たちの実感でもある。
海外では以前から危険性指摘
海外では、このベンゾジアゼピン系薬剤の危険性が早くから指摘されてきた。
1982年にカナダの保健福祉省が「The Effects of Tranquillization : Benzodiazepine Use in Canada」(精神安定薬の効果:カナダでのベンゾジアゼピン使用)と題する解説本を公表している。この中で「(ベンゾジアゼピン系薬剤の)ジアゼパムによる強いふらつきや過鎮静は若者と比べて高齢者に2倍以上発現する」などと注意を促したうえで「高齢者に使う場合は注意深いモニタリングがとくに重要だ」などと警鐘を鳴らしている。
アメリカで高齢者医療のバイブルともいわれている「ビアーズ基準」では、1991年の初版からベンゾジアゼピン系薬剤について注意を喚起している。2003年版の改訂版では危険性が「high」(高い)にランクされ、安全のためには「少量からの投与」を勧めている。2012年版では「使用を避けるように」と警告している。
日本でベンゾジアゼピン系薬剤の危険性を初めて公的に指摘したのは日本老年医学会だ。欧米と比べるとだいぶ遅いが、2005年に作成した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の中で『とくに慎重な投与を要する薬物』のリストを公表、「中止・変更を考慮する」と注意喚起している。ベンゾジアゼピン系薬剤は、このリストには当然、含まれている。
2015年の改訂版では、長時間作用が続くベンゾジアゼピン系は「使用するべきではない」と踏み込んだ表現で危険性を訴えている。
だが、この学会の注意喚起は医師に伝わっていないようだ。
厚労省が毎年、日本の医療関連データをまとめている「社会医療診療行為別調査」という統計がある。2003年以降の「催眠鎮静剤・抗不安剤」の1カ月間の薬剤料(入院・入院外と調剤の合計)が年齢ごとに集計されている。
75歳以上に限って集計すると、2003年は1カ月間に15億9561万円。その額は年を追うごとに増え、10年後の2013年には25億円を突破。その後は少し減ったものの、最新の2018年は18億8994万円だ。ただし、主な先発品の単価は、この間の薬価改定で3割前後引き下げられていることを考えると、実際の使用量はあまり変わっていないことがわかる。
さらに、75歳以上の高齢者に使われているベンゾジアゼピン系薬剤の錠剤数を見てみる。厚労省が医療関係の統計をまとめたナショナルデータベース(NDB)によると、精神神経用剤としてよく知られる「デパス」は、後発品も含めた2015年度の処方量は、75歳以上の高齢者で約4億5660万錠にのぼる。2017年度は4億2157万錠で、かなりの使用量を維持している。
日本老年医学会がベンゾジアゼピン系薬剤の注意喚起したのが2005年と2015年だから、これらのデータからみると、医師の処方行動には影響を与えておらず、一向に減っていない実態がうかがえる。
では、海外ではどうか。国ごとに医療制度が違うので単純に比較できないが、よく使われているのが国連の国際麻薬統制委員会(INCB)がまとめている報告書がある。ここにベンゾジアゼピン系薬剤を含む睡眠薬の人口当たりの消費量をまとめた統計がある(※注1)。
表に示すように、2015年の日本の消費量は67.8ミリグラムで国別では最も多かった。2018年公表分では、イスラエルやアイルランドなどの消費量が急増し、日本は5番目になっているが、それでもその消費量は極めて多い。アメリカは、日本の半分以下、英国は日本の10分の1以下だ。
(※注1) 数値は過去3年間の平均値で、単位は「統計目的のための1000人当たりの1日投与量」。各国が提出した製造量や輸出入などのデータをもとに、INCBが独自の計算式で算出している。ただ、日本で最も多く使われているデパスは統計には含まれていないなど、必ずしも実態を正確に反映しているとはいえない。
医師の「不勉強」への驚き
なぜ医師は危険性が指摘されるベンゾジアゼピン系薬剤の処方を漫然と続けるのか。実は、この問いの先に1番の問題が潜んでいる。
小田医師は、ベンゾジアゼピン系の危険性を知らない医師が多いことを挙げる。患者のかかりつけ医と手紙でやり取りをする中で感じることだという。
「医師が自分の処方した薬剤によって認知機能低下などを招いていることに気付いていない。昔、先輩から教えてもらった薬の使い方を、いまだにアップデートしていないのだろう。言ってみれば不勉強。まずは自分の薬が原因で悪くなっていないか、犯人は自分かもしれないという感覚が必要だ」
老年医学会理事長で学会の薬物療法ガイドラインを作成した東京大学大学院医学系研究科老年病学の秋下雅弘教授は、「ガイドラインは、所属する学会員以外にはあまり読まれていない」と嘆く。そのうえで臓器別に専門が分かれる日本では、老年病学などという横断的な分野のガイドラインに注目する医師は多いとはいえない。つまり危険性を「知らない」医師が多いということを指摘しているのだ。
【2020年1月23日14時30分追記】初出時の秋下教授のコメントにかかわる筆者の見解の記述を見直しました。
古い研究だが、こんな報告書がある。2011年の厚労科学研究費で国立精神・神経医療研究センターの三島和夫氏らがまとめた「高齢者に対する向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究」で、睡眠薬・抗不安薬の処方の8割が、精神・神経科以外の「一般身体科」からのものであると報告されている。
日本では医師免許さえあれば、専門外であっても処方できるのだが、専門外の分野の薬剤を処方するなら、それ相応の知識と情報を得ることが大切だ。専門外だと論文などに目を通す機会が減るなど情報量は格段に少なくなる。危険性も知らなければ、副作用にも気付かないという恐ろしい事態に陥っている可能性もある。
この危険なベンゾジアゼピン系の薬剤、医療現場でどのように使われているのか。その驚くべき医療現場の使用実態が明らかになっていく。
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